約 1,077,090 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2031.html
「あの、大丈夫ですか?」 「…ほっといてよ」 育郎に一通りの殴る蹴るの暴行、さらには首を絞めようとしたり、最後には月に 向かって叫んでみたり、一通りヒートアップしたエレオノールであったが、酒が 抜けてきたのか、今ではすっかり部屋の片隅でうずくまる負け犬となっていた。 あるいは酒が回りすぎているのかもしれない。 「そう言われても…」 まさかエレオノールを部屋に鎮座させたまま寝るわけにもいかないので、正直 気は進まないが、とにかくエレオノールを説得というか、とりあえず話を 聞いてみる事にする育郎であった。 「あの、こんな事を聞くのは失礼だとは思うんですが…何故そんな頼みを?」 問いかけには答えず、しばし恨みがましい目で育郎をじっと見るエレオノール。 いっその事廊下で寝ようかと考え始めた時、エレオノールがやっと口を開き、 ボソリと一言呟いた。 「…結婚したいのよ」 エレオノールの言葉をゆっくりと頭の中で反芻し、まっさきに頭に浮かんだ事 以外に、他の意味はないかとじっくりと思考する。 無かった。 「あの、それと胸が何の関係が?それにそういう事はバーガンディさんに相談」 「婚約解消された」 非常に気まずい空気が流れる。 「す、すいません…ってちょっと待ってください!まさか胸のせいで婚約を? まさか!そんな事あるわけが」 実際そんな訳はないのだが、それで納得するのならこんな事にはなっていない。 「じゃあなんでよ?私の何が悪いって言うの!?」 主にその気性 「はぁ…何か特別な事情があったんじゃ?」 ありません 「…例えば?」 「え?いや…それはその…」 婚約解消の理由などと急に聞かれても、そうそう思いつけるものでもない。 「やっぱり…どうせ胸の無い女なんて結婚できないのよ」 「いえ、ですからそんな事はないですって」 「それに年も…17じゃなかった、27にもなって結婚してないなんて」 「それぐらい僕の国では珍しい事じゃないですよ」 「嘘ばっかり…」 ますます塞ぎこむエレオノールを放っておく訳にも行かず、なんとか慰めようと 声をかけるが、当のエレオノールは育郎に疑わしげな視線を向けたままだ。 「う、嘘じゃないですって。その…エレオノールさんは十分魅力的ですよ」 「…じゃあ、もし貴方が貴族だったとして、私が婚約を申し込んだら受ける?」 「え?」 「やっぱり…」 「いえいえ!喜んでお受けしますよ!」 「 嘘 だ !!! 」 「お父様!?」 「ルイズのお父さん!?」 突如部屋に飛び込んできたヴァリエール公爵に驚く二人。といっても、実際は 扉の前で聞き耳を立てて部屋に乱入するタイミングを図っていたのだが。 「じゃなかった…話は聞かせてもらったぞ! お前たちが愛し合っていることは良く分かった!」 「「は?」」 「本来なら平民なんぞに大事な娘をくれてやるなど言語道断だが」 「お父様!な、なにか勘違いなさってませんか!?」 エレオノールが慌てて誤解を解こうとするが、公爵はかまわず話を続ける。 というか最初から聞こうとしていない。 「そこまで決意が固いなら…お前たちの仲を認めよう!」 「お父様!そもそも『コレ』は平民ですよ!?」 「お前の心配はもっともだ…さすがにわしも平民と貴族の結婚など認めん…」 その言葉に誤解は解けていないようだが、ややこしい事態は避けられたと ほっと胸をなでおろすエレオノール。 「故に、まずこの男は平民でも貴族になれる国に行ってもらう!」 が、世の中そんなに甘くなかった。 「しばらく時間がかかるだろうが、彼が立派な貴族になれるその日まで、 待ってくれるな、エレオノールよ…」 「いえいえいえいえいえ!何を言ってるんですかお父様!? ほら、アンタからもなんか言いなさ…って何処見てるのよ?」 見れば育郎は明後日の方を向いているではないか。さらに文句を言おうと 口を開こうとした時、突然育郎はエレオノールを押し倒した。 「ああああああああああんた一体ななななななな何を! お父様のいう事を真に受けるにしたって、もうちょっと時と場所を! それに順序とかムードとかそういうのを大事にって何言ってるの私は!?」 「大丈夫ですか、お父さん!?」 「…は?」 エレオノールを無視して、育郎は何故か床に倒れている公爵にかけよる。 「お父様!?な、何が起こってるの!?」 急な展開から、さらにわけのわからない状態に陥ったエレオノールの声に答えた わけではないが、とりあえずの疑問の答えが足元から聞こえてきた。 「帰ってきたぞ相棒!」 「きゅい!」 視線を足元に移すと、先程エレオノールが窓から投げ捨てたデルフが転がって いるではないか。さらに窓のほうを見ると、ルイズの友人の使い魔の風竜が 窓に顔をつっこんでいる。 「お前、部屋にいれろと入ったが、投げる事はねえだろうが。 危うくこのきついねーちゃんにぶち当たるところだったぜ」 どうやら先程の育郎の行動は、エレオノールを守るための行動だったらしい。 礼の一つも言うべきかと思ったが、次の瞬間聞こえてきた言葉に、その考えは はるか彼方へとふっとんだ。 「にしても、このおっさんも真正面から飛んできたんだから、避けれなかった もんかねえ?見事なまでに顔面直撃だぞ?やっぱあれか?歳か?」 固まるエレオノールをよそに、公爵を見ていた育郎が安堵の声をあげる。 「…よかった、気を失ってるだけみたいだ」 「よかないわよ!」 「え?」 「あー…相棒、ひょっとしてしっぽり始めるところだったか?」 「しっぽり?」 「ちがーーーーう!!!」 「きゅい!」 「あ、あんたらねえ…」 「どうした、何があった!?おお、旦那様!」 「エレオノール様、これはいったい?」 騒ぎを聞きつけたというか、この部屋に近づくなと公爵に言われていたが、 いくらなんでもコレを見逃したらそれはそれで問題になるだろうと判断した 衛兵達が部屋になだれこんで来た。 いい加減疲れてきたエレオノールだったが、さすがに入ってきたのが衛兵だと 分かると、顔色が変わった。 このややこしい状況を解決する為には、当然の事ながら何故自分がこの部屋に いるのか話さなければいけなくなり、となると『胸でっかくしてもらいにきた』 なーんてのは、エレオノール的にはとんでもない恥なわけで。 もっとも、侍女が彼女の掃除中に豊胸グッズを一度ならず、何度も見つけたことにより、 彼女の胸の悩みなど、屋敷中の人間に知れわたっているのだが。 「あの、これは」 「だぁぁぁぁぁぁ!あんたはちょっと黙ってなさい!」 説明しようとする育郎の言葉をさえぎりながら、この事態を解決するべくその 類まれなる頭脳をフル回転させるエレオノール。 「ま、まさか貴様…」 「なに!貴様カトレア様を…変わり果てた姿にしただけでなく旦那様まで!」 「え、いやこれは」 こ、これよ! 「ちょ、ちょっとあんた!」 すばやくエレオノールが育郎に耳打ちする。 「な、なんですか?」 「後で私がちゃんと説明しとくから、ここはあの竜に乗って逃げなさい」 「え?でも」 「それにお父様が倒れてる間に逃げないと!あんた変な誤解されたままだし、 このままじゃ本当に別の国に送られかねないわよ! あんたルイズの使い魔なんでしょ?」 育郎は床に倒れる公爵を見て、先程のやり取りを思い出す。 「そ、それもそうですね…」 「じゃあほら!早く!そこに転がってるうるさい剣も忘れないで!」 「わ、わかりました。すいませんエレオノールさん…シルフィード!」 「きゅい?」 「ちょっと下がってて」 「あ、待て貴様!何処へ行く!」 窓を占領していたシルフィードが下がるのを確認した育郎が、すばやくデルフを 拾い上げ、目にもとまらぬ速さで外に飛び出す。 「な、早い!?」 「竜に乗って逃げたぞ!追え追え!」 騒ぐ衛兵をよそに、これで安心と一息つくエレオノール。 あとは適当に言い訳を考えて、お父様の誤解をとけばいいわ… とりあえず衛兵達に、育郎を追いかけるのを止めさせようとしたその時、視界の 片隅に、この場に一番いて欲しくない人の姿が映った。 「う…お、お母様…」 彼女の母親、ヴァリエール公爵夫人その人である。 「これは何の騒ぎですか!」 「お、奥様!」 やっとエレオノール的に騒ぎが沈静化したと安心したところであったが、 ヴァリエール家ヒエラルヒーの頂点に立つ母の登場により、再び事態が ややこしい事になりかねないと、嫌な汗が流れる。 しかも怒ってる! お母様が怒る時は大概ろくな事にならないってのに… 数々の嫌な記憶を思い出しながら、公爵を介抱する衛兵に近寄る母を見る。 「あなた…大丈夫なのですか?」 「あ、はい奥様。気絶しているだけのようです」 その言葉に公爵夫人はホッと一息つく…という事も無く、無表情にぺしぺしと 公爵の頬を叩く。 「ほら、何時まで寝てるんですか、それでもヴァリエール家の家長ですか」 「あ、あの、奥様?」 「そもそも公爵たるものが、こんな真夜中に…学生のころとは違うんですよ!」 最初はかるく叩いていた手に、どんどん力がこもっていく。 「う…あぁ…がう」 そろそろビンタから、ナックルと裏拳の往復に移ろうとしたその時、公爵がやっと うめき声を上げた。 「やっと起きましたか」 「…ち、違うんだカリーヌ…アマゾネスなんてあだ名をつけたのはグラモンで… アマゾネスを越えて既にバーバリアンの領域って言ったの俺だって? グラモンの野郎裏切りやがったな…いやちが」 「…起きなさい!」 「グフっ!な…何が…」 「あなた、それはこちらの台詞です。何があったのですか」 「む、むぅ…急に何かが顔に飛んできたような… しかしやたら頬がヒリヒリするのはなんだ? あと顔より腹が涙が出そうなほど痛いのだが…」 「倒れた時、どこかにぶつけたのでしょう」 いけしゃあしゃあと言い放つ公爵夫人のその言葉に、あえてツッコミを入れる ような命知らずは勿論この家にはいない。 「そもそも何故こんな部屋にいるのです? この部屋は…確かルイズの使い魔に用意した部屋のはずですが」 「むぅ…実はな、エレオノールとあの男」 「おおおおおおお母様!」 「…なんですか、エレオノール。そういえば貴女も何故この部屋に?」 「えーと…」 婚約云々の話が母の耳に入れば、それはそれで取り返しのつかない事態に陥り かねないと、つい反射的に話をさえぎったが、まだ適当な言い訳等考えていない。 「あー、カリーヌ実は」 「あの男に襲われそうになったんです!」 「「「………は?」」」 その場にいた衛兵全員が互いの顔を見やる。 いや、それはないだろう 命知らずにも程がある いや、でも見た目は… 2、3言葉を交わせば本性がわかるだろ? すごいMとか 東方は進んでるな… アイコンタクトでそんなやり取りを交わす衛兵をよそに、一人真面目にその 言葉を受け取った公爵夫人が、目を丸くしてエレオノールを見る。 「ど、どういう事ですか!?」 「え、いや…その…襲われたというか、迫ってきたというか… カトレアのことで話があると呼び出されて…こう、一目ぼれとかなんか」 「酷いのね!気持ちよく寝てたのに、いきなりその剣が降ってきたの!」 「ごめんね」 「い、イクローが悪いんじゃないのね…悪いのはあの女なのね!」 一方そのころ、自分がさらにややこしい立場に陥っているとは思いもよらない 育郎は、空の上でシルフィードのおしゃべりに付き合っていた。 「おめえ、あの姉ちゃんに俺をぶん上げたの、わざとじゃねえだろうな?」 「そ、そんなこと無いのね!手が滑ったのー!」 慌てて否定する様子が逆に怪しさ全開である。 「シルフィード…」 「きゅい…だって…お姉さまにもし何かあった時の為にって、眠いのを 我慢して遅くまでおきてたのに…」 「そうか、タバサが」 後でお礼を言わなきゃと呟く育郎の背中で、デルフがあることに気付く。 「…ってすっかり寝てたんじゃねえか、おめえ」 「ちょ、ちょっとウトウトしてただけなのね」 「いや、気持ちよく寝てたって言ってなかったか?」 「き、気のせいなのね!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/535.html
いまだに私に目を向けないマンモーニは金属…おそらく青銅…の人形を作り出した あれを操るらしいが、何も支持されていないのか、微動だにしない 私はこれ幸いと人形の横を擦り抜けて… 【逆に考える使い魔】 「僕は魔h「蹴り穿つ!」ぉつべらッ!?」 何をしたか? 簡単だ、容赦無く[コークスクリュー式ボディストレート]を叩き込んだ! 風車のように回転しながら水平に飛んでいくマンモーニ… お?気絶しなかったか!やるな! よし!マンモーニからフラレ虫に格上げしよう! 「ひ、卑怯な…」 フラレ虫が悔しそうに唸るが、相手にしない! 「馬鹿者!決闘者が相対した時点で闘いは始まっているのだ!」 うむ、格好良い!流石は私だ 「ところで…だ、君は私に『お仕置き』をする…と言っていたね…、それは無理な相談だな… だから 私が 君に 特別な 『お 仕 置 き』をしてやろう。」 左手のルーンが猛烈な光を放つ! ルーンから流れ込む知識に従い、私はズボンを脱ぎ捨て! バックステップ、バック転と続け様に距離をとり! 一転して一気に走り込み! フラレ虫に向かって大ジャンプ! 体を海老のように反り! そのまま強調された私の『ちまき』を --少々お待ち下さい-- 「ふ、虚しい勝利だ…」 青銅のギーシュ 第二~第五肋骨完全骨折 内蔵損傷 精神的苦痛により 再起不可能!(リタイア!) なに?なぜ私が強いのか気になる? 逆に考えるんだ、『実は私は義理の息子を瞬殺する力を隠していた』と考えるんだ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1040.html
食堂はすでに閑散としていた。生徒たちの大半は教室を目指し、先ほどまでの喧騒もそれに伴い移動している。 「ご精が出るのう、お嬢さん」 トンペティに声をかけられたメイドは、 「ありがとうございます」 微笑み返し、少し頬を赤らめミキタカへも微笑みを投げかけた。ミキタカは静かに笑い返し、メイドの頬が一層濃い朱に染まる。 掃除中のメイドが離れていくのを目の端で追い、ミキタカは口を開いた。 「どうでした、老師」 「ふむ……」 手を開き、握り、また開き、握る。掌には幾本もの深い皺が刻まれ、それに倍する古い傷跡が走っていた。 「これは主の求めている答えではないかもしれんがの。ルイズ嬢は……なかなか面白い」 「面白い、とは?」 「うむ。パイプ、いいかね?」 「どうぞ」 深く吸い、吐く。鼻から、口から。 「ルイズ嬢から感じ取った生命エネルギーは男のものと女のもの、合わせて二種類。といっても一種類」 「それは興味深いですね」 「その通り」 紫煙をくゆらせ、より深く腰掛けなおした。 「強い絆。絶ち難き縁。恋や愛もあるが、それだけでは無かろう。ルイズ嬢の深い部分に食い込み、二つの生命エネルギーはもはや一つと呼ぶに相応しい。うらやましい話じゃ」 「多重人格のようなものですか?」 「違う。もっと根本の部分でつながっておる。双方がお互いを喜んで受け入れている。そうじゃの……自分の中にもう一人の使い魔がいる、とでも言えばいいか」 「使い魔ですか」 「陳腐な例えを使うとすれば『運命に逆らってでも離れたくなかった恋人たち』じゃな」 「なるほど。ルイズさんの内面にも何かしらの影響がありそうですね……」 顎に指を当て考える。鼻のピアスと耳のピアスを繋ぐ紐が指をくすぐり、こそばゆい。 「判断材料は増えましたが、これは色々な意味で複雑な問題です」 言葉とは裏腹に、口調ははずんでいた。トンペティも楽しそうに煙を吐いている。 「この問題は夜にでも考えるとして、今は実際的に動くとしましょう」 「別の男女のためかな?」 「義理が多いというのも大変です。正月に付き合いで子供とババ抜きする大人の気持ちです」 やはり、言葉と口調は裏腹だ。パイプを離そうとしないトンペティをそのままに、軽い足取りで厨房の入り口に向かった。 生徒達が食事をとった後でも料理人の仕事は終わらない。次の仕込み、洗い物、皆が皆休む暇なく動き続けていた。 「ちょっといいですか」 その場にいた全ての人間が手を止め、声の主を確認し、一人の例外もなく笑い、作業に戻った。 嘲りではない。声の主に対する「こいつは次に何をやってくれるんだ」という期待を覗かせている。 「マルトーさん。下のゴミ置き場に置いてあった大鍋をもらってもいいですか」 「なんだミキタカ、また何か面白いことでもしようってのか」 コック、メイドといった学院内で働く平民達はミキタカに好感を抱いていた。 貴族であっても偉ぶらず、他の貴族達を彼一流の諧謔で煙に巻く様は見ていて痛快だ。 支持者筆頭が押し出しの強いことで知られるコック長のマルトーであり、ミキタカの頼みであれば多少の無理をも通してくれた。 「いいえ。もう少し切実なことですよ」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/411.html
私は道を歩いていた… 命の恩人の息子で我が養子のディオに殺害されたはずだが、気が付けば道を歩いていた… 周囲は雲に覆われている… 天国への階段ならぬ天国への道なのだろうか…? そして道の先に浮かぶ鏡のような存在は天国への入口なのだろうか…? どちらにせよ私に出来ることなど何も無い ただ、ひたすらに突き進み迷わず鏡に飛び込んだ 逆に考える使い魔 何も見えない真っ白な世界 自分の中の何かが変質して… 『なに?自分が変わっていくのが不安だと?』 『逆に考えるんだ』 『むしろ面白可笑しく変わるべきだと』 唐突に聞こえてきた自分の声に変質が加速し…視界が暗転した
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/757.html
その日の朝、 「う~ん、もうちょっと~」 「はやく起きないと遅刻するよ」 「何いってんのよ~今日は虚無の曜日だからやすみ~」 等と言う事があった2時間後、 「何で起こさないのよ!今日は買い物に行くつもりだったんだから! これじゃ帰る頃には真っ暗になってるじゃない!」 育郎は馬に乗りながら、何時ものようにルイズの理不尽な怒りを受けていた。 「それで、買い物って?」 3時間程馬に乗った後、ついた街の門のそばにある駅に馬を預け、 映画のセットのような街並みを歩きながら、育郎が隣を歩くルイズに尋ねる。 「剣よ」 何故か80年代なビキニアーマーを纏ったルイズが、剣を抜く様が頭をよぎった。 何かが色々足りない気がした。何が足りないかはよくわからなかったが。 「…似合わないんじゃないかな、君には?」 「はぁ?なんで貴族の私が剣なんて持たなきゃいけないのよ? あんたのに決まってるじゃないの」 「僕の?」 「そうよ!」 ビシッ!っと育郎を指差して続ける、 「昨日の一件であんたが馬鹿力なのはわかったわ! けど、やっぱりそれだけじゃ私の使い魔として不満なの。 剣でも持てば少しはマシになるでしょ?」 いらないと反射的に答えそうになるが、もしもの時、あの力を使わずとも良くなる かもしれないと考えなおす。 「すまない…でもお金は大丈夫かい?」 「あのねぇ、私は由緒正しい『貴族』なのよ?剣の一本や二本どうってことないわ。 アンタに渡した財布の重さでわからない?」 言われてみれば、下僕が持つ物と言われて持たされた財布は、ヘルメットだったら 母さんです…と言ってしまいそうな程ずっしり重かった。 「スリには気をつけてよね。これから行く所は物騒なんだから」 そう言って入った狭い路地裏は、なるほど如何にも危ない雰囲気が漂っている。 「ルイズ、危ないから離れないで」 育郎が差し出した手を、不思議そうな顔をしてルイズは見る。 「何、これ?」 「いや、危なそうだから手をつないだ方が」 一瞬の沈黙の後。 「な、なに言ってるのよ!私は貴族なのよ!危険なんてあるわけないじゃない! それにね、平民が気安く貴族にさわろうとしないの!」 そう怒鳴ってどんどん先に進むルイズであった。 武器屋の親父はなんともたるんだ顔で、パイプを吹かしながら暇を潰していた。 最近は土くれのフーケなんぞという盗賊があらわれたせいで、貴族が下僕に剣を 持たせようとする事がはやってると言われているが、実際は傭兵を雇うことが多く、 思われているほど儲かってるとは言いがたいのだ。 「どこぞの物を知らない貴族でもこねーもんかな…思う存分ぼったくってやるのに」 「そんな美味しい話あるわけねーだろ」 誰もいない所から声が上がるが、親父は特に不思議がる事も無くその方向に言い返す。 「うるせーぞデル公!だいたいテメーはいつも客にいらん事を」 「おっと親父、客が来たみたいだぜ」 「なぬ!?それを早く言えデル公!」 早速顔を引き締め、この界隈に相応しい悪党面にかわる。 「もっと愛想のいい顔しろよ…」 「うるせえな!荒くれども相手にゃ舐められたら終わりなんだよ! ていうかおめえ、客のいる間だけでいいかちゃんと黙ってろよ!」 「ヘイヘイ」 薄暗い店の奥を見ると、こちらを見て胡散臭げな顔をする店主の顔が見えた。 しかしルイズが貴族と気付くと、表情は一変し営業トークを繰り出す。 「いやー若奥様、うちにこられるとはお目が高い!」 「これなんてどうですかい?業物ですぜ」 「もっと太くて大きいのがお望みで?ちょっと待っててくだせえ。 奥からとっておきを持ってきやすんで」 (おい、親父。舐められたら終わりじゃなかったのかよ?) (うるせーデル公!世間知らずの貴族なんて、適当におだててりゃいいんだよ) (そーいうもんかね?) 「ねえ、まだ見つからないの」 「へえ若奥様、いますぐに!いいか、絶対しゃべるんじゃねえぞ?」 「さあ、どうですかい若奥様!かの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の作。 太くて硬くて暴れっぱなし!店一番のビッグマグナムでさ! 魔法がかかってるから青銅だろうが鉄だろうが青銅だろうが青銅だろうが一刀両断! まあ、その分お高くなりやすが…」 見れば宝石が散らばり、見事な細工も施され、いかにも名剣という感じである。 「おいくら?」 「ルイズ…こんな高そうなもの」 「いいのよ!ほら、いくらなの!?」 高価そうなので、思わず育郎が止めようとするがルイズは聞こうとしない。 「へい!エキュー金貨で二千!新金貨で三千でさ!」 あまりの値段にルイズが文句を言おうとしたその時、誰もいない方向から声がかかった。 「おいおい、親父。そんなナマクラ押し付けといて、ボリすぎだろう!」 武器屋の親父の顔色がさぁっと青くなる。 「てめ、デル公!黙ってろって言っただろ!い、いやあのですね」 「まさか貴方、貴族を騙そうとしたんじゃないでしょうね!」 「い、いえいえ、滅相にございません!」 主人を詰問するルイズをよそに、育郎が声のした方に近づく。 「誰かいるのかい?」 「いるのかい?じゃねーよ、おめえの目の前だろ?おでれーた! こんなヌケてて剣を降ろうってか?冗談じゃねえぜ!」 「まさか…『君』なのか!?」 「そうだよ、このトンチキがッ!」 しかして、育郎が見つけた声の主は錆びの浮いた剣だった。 「剣がしゃべるなんて…」 「それってインテリジェンスソード?」 主人と言い争っていたはずのルイズが、いつの間にか傍に来て『剣』を見ていた。 「そうでさ若奥様!世にも珍しい意思を持つ魔剣、インテリジェンスソード! どこのアホ…もとい、魔術師が始めたんでしょうかね?剣をしゃべらせるなんて。 とにかくこいつは口は悪いは客に喧嘩は売るわ…デル公!お客様に失礼だろうが! これ以上失礼な真似をしたら、貴族に頼んでてめえを溶かしてやるぜメーン!」 「うるせえクソ親父!逆にお前のタマ○ンをちょん切ってやるぜメーン!」 「なんだと!なら俺はてめーのそこ以外を切り刻む!」 顔を真っ赤にして『剣』に近づく主人を育郎が止める。 「なんですかい?」 「ちょっと待ってください…ルイズ、この剣を買おう」 「え~~~!やーよ、なんかメーンとか言ってるし」 顔、声共にこれ以上ないぐらい嫌そうにするルイズ。 「このまま溶かされたら可愛そうじゃないか…」 「いいじゃない別に。メーンとか言ってるし」 「それにほら、僕はこの国の事を良く知らないから、何かの時はこの剣に聞けるし…」 「でもねぇ…メーンとか言ってるし」 「あの、いいですかい?」 何とかルイズを説得しようとする育郎を見て、主人が声をかける 「それなら厄介払いの値段込みで百で結構なんですが… あ、それとうるさいようでしたら、鞘に入れると黙りやすんで」 「じゃいいわ…メーンとか言ってるけど、買ったげる」 「ヘイ、毎度!」 「ありがとう、ルイズ!」 「い、いいのよ。安かったし…メーンとか言ってるのがあれだけど…」 金貨を渡して、剣を受け取ると、『剣』が早速喋りだした。 「にしてもおめえ、人が良いよな。剣に可哀想はねーだろ」 「まったくね、メーンとか言ってるのに」 「よろしく、デルコー」 「ちがわ!デルフリンガー様だ!この…」 急にデルフリンガーが押し黙る。 「どうかしたのかい?」 「おでれーた、こいつはおでれーた…てめ『使い手』か?」 「使い手?」 「いや、それだけじゃねーな…はーこりゃスゲーや。おでれーた」 「………わかるのか?」 「ま、俺は『剣』だからな。使う奴の事ぐらいわからーな」 「なによ、二人でこそこそと。またメーンとか言ってるの?」 「いや、なんでもない…デルフリンガー、その…」 「わーってるよ、嬢ちゃんには内緒にしといてやる」 「なー、相棒…」 馬に乗って帰りの道を急ぐ育郎にデルフリンガーが話しかける。 「なんだい?」 「いやな…どうってことねーんだが…」 少し戸惑いながらデルフリンガーが口を(?)開く。 「あのな、相棒…相棒がスゲーのはよくわかったんだが…」 「?」 「なんだか俺いらねーんじゃねーかって気がしてきてな…」 「………」 「な、何とか言ってくれよ相棒!?」 「そろそろ店閉まいにするか。おい、デル公…っていねーんだったな… まったく、あいつの厄介払いが出来て、百ももらえたんだから今日は万々歳だぜ」 武器屋の親父が、つい何時ものクセで誰もいない店の中で喋りだす。 「それにしてもあれだな、随分と長い付き合いだったぜ…ったく あいつのせいで何度儲け話が駄目になったか…」 何時もならここでデルフリンガーが反抗してくるのだが、もう彼はいない。 「へっ、随分静かになっちまったもんだ…」 武器屋の親父は自分の部屋へ行き、2時間眠った… そして……目をさましてからしばらくして… デルフリンガーが居なくなった事を思い出し………泣いた………
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/487.html
ギーシュとの決闘から数日、ヴァニラは比較的安定した日常を送っていた 平民が貴族を、それも魔法とは違った力で倒したという噂は学園中に広がり 初めの日こそ無謀にも決闘を挑んだ生徒もいたが杖を消し飛ばされる者が続出し、すぐにいなくなった ついでに財布を盗られたという者もいたが確かめる勇気のある生徒は・・・・教師もだが、一人もいなかった 食事もシエスタが厨房の責任者にかけあい貴族が食べているものと同じものが供されることになり 借りを作るのを良しとしないヴァニラが初めの方こそ拒んだがコック長のマルトーは貴族嫌いらしく 彼曰く、いけ好かない貴族を負かしてくれた礼だということで受けることにした だがその生活の中にもいくつか問題点はある ひとつはギーシュ・グラモン、通称ヌケサク あの決闘でほとんど攻撃らしい攻撃を受けるまでも無く、挙句の果てに自分の作った剣で杖を弾き落とされるという不名誉な敗北を喫し 彼の貴族としての誇りは酷く傷つき、そのまま大人しくしょげ返ってれば何の問題も無いのだが 決闘を見ていた生徒の数人からもヌケサク呼ばわりされ、あろうことか再戦の機会を狙っているらしい ルイズは「また騒ぎになったらどうする気よ!?」と騒ぎ立てていたがヴァニラは「その根性だけは褒めてやってもいい」と評価を改めた もちろん絶対に負けないという自負の上での発言であろう そしてもうひとつ これが一番重要な問題であったがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、ヴァニラの自称・ご主人様 ヴァニラが彼女に従っている唯一にして最上の理由は元に戻る方法を探すこと だがそれが叶えられる望みが非常に薄いことを知ってしまった ギーシュとの決闘の次の日、ルイズの授業に付き合わされたヴァニラは面倒臭そうな顔で階段に腰を下ろしていた 講堂のような造りになった教室の最下段にたった教師が何か話しているがヴァニラはそれを聞き流しながら今頃ジョースター一行を討ち果 たしているであろうDIOのことを考え、僅か二日で何度目かも覚えていない望郷の念に苛まれていた その時教師であるミス・シュヴールズはルイズをダシに調子こいた二年坊に上下関係を叩き込もうとしていたが致命的なミスを犯そうとし ている事に気づいていない それは 「ミス・ヴァリエール、前に出てこの石ころを望む金属に錬金してごらんなさい」 その瞬間、教室中に緊張が走るッ! それはさながらどこかの高校生が髪型を馬鹿にされた瞬間の女子生徒ッ!! 只ならぬ気配を察知したヴァニラが顔を上げた時にはルイズがゆっくりと教壇に向かい、クラスメイトたちが呪詛や罵倒の言葉を口々に叫 びながら机の下に潜り込んでいる最中だった 状況が掴めず訝しそうに眉を顰めるヴァニラを他所に、ルイズを向かいいれたシュヴールズはにっこりとルイズに笑いかけた 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 その言葉にこくりと頷いて、ルイズは手に持った杖を振り上げた すっかり避難が完了した生徒達の何人かは未だに階段に座ったままのヴァニラに気づき「かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店 先にならぶ運命なのね」といった感じの哀れむような視線を送る・・・・送るだけで何も言わなかったが 「・・・・・・」 一方のヴァニラはルイズが魔法を使ったところをまだ一度も見たことが無いのでどの程度の実力なのか見極めようと観察する気満々ッ それにしてもこのヴァニラ、ノリノリである ルイズは目を瞑り、短くルーンを唱え、杖を振り下ろし そしてその瞬間、机ごと石ころは爆発した 爆風をモロに受け、リズとシュヴールズは黒板に叩きつけられた 彼方此方から悲鳴が上がり、爆発に驚いた使い魔たちが騒ぎ出したが問題は砕け散った石ころの破片ッ!! 加速度的に広がる破片はさながら榴弾砲の如く飛び散り、椅子や机に容赦なく減り込む 「何ィィィッ!?」 咄嗟に亜空間に逃れようとするヴァニラだが突然のことに対応が遅れ足や肩に数発喰らってしまった 爆発の余波が収まった頃に漸く亜空間から顔を覗かせたヴァニラが見たのは煤で真っ黒になったルイズがむくりと立ち上がり、阿鼻叫喚の 教室を意に介した風も無く、顔に付いた煤を取り出したハンカチで拭きながら、淡々といった瞬間だった 「ちょっと失敗したみたいね」 この日、ヴァニラは『ゼロ』の意味を知り、帰る望みを半分以上、捨てた To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1924.html
キュルケに部屋の交換を断られたワルドとルイズ、彼女の使い魔は番頭の親父に、四人部屋に案内された。 「かなり広いな。このの感じだと、日本の東京ならスウィートクラスといっても通るな」 そう発言したのは露伴である。彼の言うとおり、案内された部屋はかなり広い。 また、壁紙はベージュの地に、茶色の縦線が趣味のよい間隔で描かれていたものだ。 なるほど、四人部屋といっても、貴族のために作られたホテルであるらしい。 部屋の中央に、ルイズの部屋にあるものよりふた周りほど大きい、四角い机がおかれている。 「いや、この広さならイタリアのホテルでもそんなにないと思うぞ」 「もっと狭いかと思ったけど。この程度ならあまり不満はないわね。ちょっとは安心したわ」 部屋の入り口から入って右側に、シングルベッドが四つまとめて配置されていた。 二つずつ縦に、互いに頭が向き合うように配置されている。 また、左側はちょっとした広間として利用できるようで、背もたれつきのソファーが二つ対面するように並べられている。背もたれは赤い絨毯地で、足載せも完備。 この部屋は中庭に面した三階なので、ソファーにくつろげば、窓を通して、中庭が見ることができた。だが、中庭は物置になっているようで、部屋の眺めはあまりよろしくはない。 入り口の正面、反対側に暖炉も備え付けられていた。店番はそこに向かっていくと、自分の懐から火打石を取り出し、同じく懐から取り出した紙屑に火をつけた。そこでかがみこんで、暖炉に火をくべようとしている。 「明かりは必要ないと思うがな」ブチャラティは部屋の壁を見ながら店番の背中に話しかけた。 ブチャラティの見る方向の壁には、魔法で点灯する、学院にあるものと同じタイプのランプが二メイル間隔で均等に配置されていた。 明かりならば、暖炉の火を使わずともそれで十分なはずである。 だが、店番の男は暖炉に屈みこみながら、なおも作業をやめない。 手馴れたもので、すでに種火はつけおわり、鞴で薪に火を移している。 「いえ、ラ・ロシェールの夜はこれからが冷えますんで」 要は山岳地帯なので、気温の落差が激しいらしい。 店番は、これは地元のワインですと言ってひとつの瓶をテーブルに置いて退室した。 これで体を温めろ、という事らしい。 「なるほど、シャトー・ツェッペリンの赤か……」 露伴がその瓶の銘柄を確認しながら、ラベルをスケッチしている。 「それは、この地元のワインね。結構やわらかい、飲み易い味わいのはずよ」 「ルイズ、君の体力は大丈夫か?」 ブチャラティはそういいながら、暖炉に一番近いベッドに自分の荷物を置いた。 「大丈夫よ、ありがとうブチャラティ。かなり疲れてはいるけど、この後お風呂に入るぐらいの余裕はあるわ」 ルイズはそういいながら、ブチャラティの隣、壁際のベッドに腰掛けた。 彼女はそういっているが、見た目にはかなり疲れているように見える。 今にもベッドにもぐりこんで熟睡したいのを、彼女は貴族のプライドで我慢しているようだ。 「そうか。だが、休めるうちに休んでおくべきだな。風呂からあがったら、ワインでも飲んで体を温めてから、すぐに眠るといい」 そのようなやり取りを尻目に、ワルドが二人の背後から話しかけた。 「ルイズ、話がある」 ワルドはそういいながら、早々に自分の荷物を入り口の傍らにおいてあるベッドの側に置いている。彼の目は真剣だ。 「ならば、ルイズが風呂に入った後にたらどうだ? 彼女は疲れているようだ。大事な話なら、そんなに急がずに、落ち着いてから話したほうがいいだろう」 「そうね。それで良いかしらワルド? そのほうが私、あなたのお話をじっくりと聞くことができると思うの」 「あ、ああ。それじゃあ、僕達男性陣も旅の垢を落とすことにしようか」 ワルドはそういいながらも、心残りがある調子で部屋を出て行った。 「ワルドの話? いったいなんだろう……」 ルイズは一人ごちながら、部屋の隣にあるという女性用の風呂に向かっていった。 「ふう、さっぱりしたわね」 ルイズが個室に付いていた風呂からあがり、宿屋備え付けの白いローブに着替える。 綿の感触が心地よい。 ルイズがさっぱりとした気分で部屋に戻ると、男三人はすでに寝巻き姿で机の周りを囲むように座っていた。 「待った?」ルイズは髪をバスタオルで拭きながら皆に聞いた。 彼女は自慢の髪の毛を洗っていたので、いつもより入浴時間がかかってしまっていた。 「いや、そうでもないさ、ルイズ。俺たちもさっき部屋に帰ってきたばかりだ」 ブチャラティが、机に置かれた四つのグラスにワインを注ぎながら答える。 彼らも共同浴場から帰ってきたばかりのようだ。 「ちなみに、女性用の浴室はどんな感じだったか?」 露伴の質問に、ルイズは目をぱちくりさせながら答えた。 「どんなって言われても…普通の小さなバスに、シャワーが付いていただけよ? 今回は小さな個室の風呂を使ったし」 「そうか…」露伴はあからさまに残念そうな声を発した。なぜか失望している。 彼がこのような質問をしたのは理由がある。 男三人は大きな共同浴場を利用したのだが、これは宿主自慢の大きな複合施設になっていた。 全面大理石の床に、暖めた蒸気を循環させた快適な気温管理。さらにプールほどもある大きさの浴槽の周りに、従業員が常時二人以上付いていて、宿泊した人には無料で垢すりをやってくれる。おまけにサウナまであった。 男性陣とルイズの入浴時間がそれほど違わなかったのは、露伴がそこで即席の取材を行っていたからだ。 四人は机を囲んで座り、宿の親父が持ってきたワインを飲んでいた。 なぜか部屋には沈黙がある。ワルドは話があると自分からいっておきながら、話しづらそうであった。彼は露伴たちをチラチラと見ている。 先に言葉をつむぎだしたのはルイズだった。 「ねえ、ワルド。あなたと最後に会ったのは……」 ルイズはワルドに言いかけ、ハッと口をつぐんだ。 しかし、言われた当の本人は特に気にした風でもなく、ワイングラスを傾けながら先を続ける。 「君と僕が最後にあったのは、僕の父上がランスで戦死して、その葬式を行っていたときだったね」 「ええ、そうね」 ルイズは罪悪感で声を鈍らせている。 「いいんだ、ルイズ。あの時から、長い年月が過ぎた。僕の父上は立派に貴族としての義務を果たした。 それについては誇りを抱いているし、父上が死んだ悲しみは時が癒してくれたよ。だが、君の美しさは時がたっても変わっていない。いや、ますますかわいらしくなったよ」 「そんな、こと、ないわよ」 顔を赤らめたルイズは、それを隠すかのようにワルドに向かって語りかけた。 「あ、あなたはあの後どんなことをやっていたの? 私、あの後あなたの領地に何度か行ったのよ? でもあなたは全然実家に帰ってくることはなかったわ」 ワルドは顔をほころばせ、ルイズの頭をなでながら微笑んだ。 「そうだね。僕はあの後すぐにトリステインの魔法衛士隊に入隊したんだ。軍務が忙しくてね、領地にはまったく帰れなかったんだよ。いまだに屋敷も執事のジャンに任せっぱなしさ。まあ、そのおかげで隊長になれたけどね」 「そうだったの」 「そうさ。なにせ、家を出るときに決めていたからね。ルイズ、僕は立派な貴族になって君を迎えに行くってね」 「え…?」 ルイズは心底驚いた。家が隣同士でもあり、どちらも由緒正しい家の出であることもあって、ルイズとワルドの両親は、二人の婚約を決めていたのだった。 しかし、当時は二人とも小さな子供。婚約といっても、戯れに交わした約束のはずである。 実際、ルイズはワルドに言われるまでそんな約束があった事すら完全に忘れていた。 「そうさ、ルイズ。僕にとって、君との婚約話は真剣だったんだよ。無論、今もね」 今、なんていったの? そういおうとするルイズの機先を制し、ワルドは言った。 「だから、ルイズ。この旅が終わったら結婚してくれ」 「ええ?」 ルイズは再度驚いた。驚愕したといっても良い位か。 彼女は年頃の乙女であったし、素敵な新婦の姿にあこがれることもあった。 だが、彼女は学生であったし、結婚なんてまだまだ先の事、と思っていた。自分が結婚するなどとは現実感がいまいち沸いてこない。 ルイズは、目が覚めていながら何か妙な夢を見ているような気分を抱いた。 ワルドとはいい思い出しかないが、それは恋愛感情なのだろうか? ルイズにとって、ワルドは憧れなのか、恋心なのか、いまひとつ自分の気持ちがわからない。 ルイズにとってワルドはいい人である。それは間違いない。 だが、今までろくにあっていない人物であったのも確かだ。 それなのに、いきなり結婚などと…… 彼女はこのときどう返事をすればいいのか、どのような表情をしていいのか判らなかった。 ルイズは二人の使い魔を盗み見た。 「なあ露伴。この世界じゃルイズの年齢で結婚するのが普通なのか?」 「さあ、そこまでは僕にもわからないな。なんとも言えないが、ワルドの口ぶりからすると貴族連中の間では珍しくはないんじゃぁないか?」 完全に他人事である。特に露伴は。じつに気楽な表情がなんとも憎たらしい。 「で、でも。私なんかじゃ魔法衛士隊の隊長はもったいないと思うわ。私みたいなろくに魔法が使えない小娘なんて相手にしても……」 「違うんだルイズ。君は自分の本当の力に気が付いていないだけなんだ」 ワルドは自分のグラスに二杯目のワインを注ぎながら語る。 「君は失敗ばかり繰り返して、二人のお姉さんといつも比べられていたね。 でも違うんだ。君は特別なんだよ。スクェアクラスになった今の僕にはわかる」 「そんなことないわ。私はマトモな使い魔も召喚できなかった落ちこぼれよ」 照れたように否定するルイズに対し、ワルドは大げさとも言えるほどに頭を振った。 「違うさ。君の使い魔達、彼らのルーンはどんな意味を持つか知っているかい?」 「いえ、そういえば知らないままにすごしてきたわね」 ルイズは、召還の儀式を行っていたとき、コルベール先生が興味深そうに印を見ていたのを思い出した。 あの博識なコルベール先生も一見ではわからないようだった。かなり珍しい印であることは想像できたが、今まで深く考えたことはなかった。 「アレは『ガンダールヴ』のルーンさ。伝説の使い魔の印さ」 「『ガンダールヴ』?」 「そう、始祖ブリミルが用いたという、伝札の使い魔を君は呼び出したんだよ」 「……平民よ? ドラゴンでも幻獣でもない、ただの一般人よ?」 「『スタンド使い』がただの一般人といえるかい?」 ワルドの一言で、使い魔の二人はようやく話を真剣に聞き始めていた。 「おい、ワルド君よ。君には僕達のスタンドを見せていないはずだが?」 「いや、僕のルイズが召喚したからね。君達がただの平民ではないとは、簡単に想像がつくさ」 「だが、俺達がここに召喚されたときは誰一人として『スタンド』は見えていてもその概念を知るものはいなかった。お前は何故『スタンド』の存在を知る?」 ブチャラティが口を挟んできた。いつの間にか警戒態勢をとり、ワルドを自身のスタンドの射程内に納めている。 ワルドは少し時間の間をおくと、罰の悪そうに頭をポリポリと掻いた。 「しょうがないな。これは王政府の機密事項なんだが……五年ほど前から、系統魔法でも先住魔法でもない、不可思議な力を持つ平民がトリステインとガリアの国内で確認され始めた」 「で、それでどうしたんだ?」 露伴は次を促している。彼は薪をくべて暖炉の火を調節していたが、意識は完全にワルドの話にあった。 「彼らはその能力をどうやって手に入れたのか、どうしてその能力を持っているのかは王政府は解明できなかった。だが、彼らは自分たちのことを『スタンド使い』と名乗っていることが判っている」 ワルドは二人に向けて微笑をたたえた。敵意がいないことを示すため、両手を自身の杖から離したまましゃべり続けている。 「君達は魔法が使えない。だから平民だ。だが僕には、君達には得体の知れない自信を持っているように感じた。だからカマをかけてみたんだが…… どうやらあたったようだな」 「僕達はつまり、してやられたというわけか?」 「そのようだな」 一気に場の空気が弛緩する。そのときになって初めて、今まで空気が張り詰めていたことにルイズは気づいた。 それほどまでに彼女はワルドの申し出に驚いていたのだ。 ルイズは、とりあえずこう答えるしかなかった。 「いまは、考えさせて。ひとまずこの旅が終わるまでは」 「それじゃ、だめ?」 おずおずと言い出した許婚者にワルドは、ほっとした風に微笑んだ。 「そうだね、そうしよう。この話は僕達にとっても唐突過ぎたようだね。でも、僕は 君が『うん』と返事をしてくれると信じているよ」 「と、まあ。今日の話はこれぐらいにして、明日に備えて寝ようか」 ワルドはそういいながら、みなに自分の左腕を見せ付けた。 彼は手首に腕輪をしていて、腕輪の中には円盤型のガラスがはまっている。中に水と、三本の針が入っていた。また、その円盤には金属製の突起物がひとつ付いている。 なにかのマジックアイテムらしい。 「これ、ひょっとして腕時計か?」 「そうさ、少しばかり高かったが」 ワルドが露伴の質問に答えながらその突起物を回すと、今まで無秩序に浮かんでいた三本の針が規則的に動き始めた。 しばらくすると、針が正確に時を示しだす。 「もうこんな時刻だ。明日は早いことだし、もう寝ることとしよう」 「そうだな。明日は早いし、僕は船の取材を存分にしたい。もう今夜は寝よう」 ルイズの複雑な気持ちなど露知らず、露伴はそう言いながら、ワイングラスに残ったワインを一気に飲み干すと、さっさと自分のベッドに入ってしまった。 露伴とワルドの寝息がかすかに聞こえる。彼らは熟睡しているようだ。 ルイズはまったく眠れなかった。ワルドのあの話がされてからずいぶんたつというのに、まだ心臓がドキドキ高鳴っている気がする。 「眠れないわね」 そういいながら布団をどけて起き上がったルイズは、ブチャラティが寝床にいないことに気が付いた。 よく探してみると、部屋のソファーに誰かが座っていた。重なった月の光に照らされた中、ワイングラスを傾けながら外を眺めている。ブチャラティだ。 「ブチャラティ? あなた眠らないの?」 「いや、眠るつもりだったんだが、今夜は月夜が綺麗でね。少しだけ眺めていたら皆眠ってしまった。それよりルイズはどうした?」 ルイズが寝巻きのローブ上に学院のマントをはおり、ブチャラティの隣に、向かい合う形でソファーに腰掛けた。少し肌寒い。 窓を見上げると、彼の言うとおり、上空で重なった月が幻想的な光をたたえているのがみえた。 青白い光がなんとも形容できない幻想的な気分にさせてくれる。 「ブチャラティ。私、なんだか眠れなくて」 「明日は早いぞ、疲れているんだから君はなるべく休んでいるべきだ」 飲むかい? とばかりにワインボトルを傾けたブチャラティに対し、ルイズはうなずいて自分のグラスを取り、彼のほうに突き出した。 二人を、窓越しに月光が照らす中、ルイズはおずおずと語りだした。 「ブチャラティ。私はワルドの求婚にどう答えればいいと思う?」 ブチャラティは彼なりに深く考えた末、彼の前方のソファーに座りこんでいるルイズに向かって、真剣に答えはじめた。 「うーん。俺はそっち方面の話は苦手なんだがな……ルイズが思ったことを正直にワルドに言えばいいんじゃあないか?」 「正直私にもわからないのよ、ワルドのこと……私が彼をどう思っているのか……彼はとてもいい人よ…でも、それは好きとか嫌いとかじゃないような気がするの。 うん、どちらかといえば憧れかな…」 ルイズはそういいながら自分の言葉に驚いていた。 そうか。私、ワルドのことをそう思っていたのか……そうなんだ…… ……私が本当に『好き』なのは……ひょっとして……? ルイズの眼前に、彼が先日アンリエッタの前に跪き、手の甲に口付けをしている光景がフラッシュバックされるように再生された。 同時に、そのとき、自分がどういう感情を抱いたのかも思い出していた。 「ルイズ。ひょっとして、今君には誰か他に、気になっている人物がいるんじゃないか?」 突然のブチャラティの指摘の前に、ルイズは思わずブチャラティの目をマトモに見てしまった。 知らず知らずのうちに彼女の頬が赤くなる。ルイズはつい、ごまかすように夜空を見上げた。重なった月が儚げに輝いている。 「そ、そんなんじゃ……ないわよ」 「そうか? まあ、要はきみが正しいと思った道を選ぶべきだ。身分の丈がつりあわないとか、年齢に差がありすぎるとかは気にすることはないんじゃないかと思う。 君がどの道を選んでも、俺は君の味方でいるつもりだ」 そう、とうなずくルイズを尻目に、ブチャラティは立ち上がって大きく背伸びをした。 もう寝るつもりらしい。 「ブチャラティ」 ルイズは、寝床の向かおうとする彼の背中に声をかけてみた。 「なんだ?」 「その……ありがとう」 「なに、これくらいお安い御用だ」 ルイズはちょっと気取ってワイングラスを傾けた。今なら気分よく眠れそうな気がする。 彼女は重なった、『スヴェル』の月を見ながらそんなことを考えていた。 暖炉の薪の、パチパチとはぜる音が、ルイズの周りの空間を優しく包み込んでいた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2501.html
ところで、ぼくは仮面を持っていなかったかい? あれはぼくのお守りでね、ないと少し困るんだ。 だが返ってきたのはそんな仮面は知らないし、最初からなかったという答えだった おれは使い魔になるぞジョジョーッ! 幕間 侵略者ディオ 二つの月が輝く夜…学院の庭の椅子に一人の青年が腰掛けていた。だが気配を感じる事ができるものなら気がついただろう。 満天の星明かりに加え二つの月が辺りを照らしているのに、その青年の周りだけは闇夜よりも濃い漆黒の雰囲気に包まれている事を… ディオはこれからの計画について考えていた。 何はともあれ考えなくてはならないのが石仮面の存在だ。あの後ルイズに聞いたところ石仮面はあの場所に来ていない事がわかった。 だが、おれはあの鏡に吸い込まれる瞬間まで石仮面を持っていた。ならば答えは一つッ! 石仮面もこの世界に来ているのだッ! 恐らく向こうとこちらの間を通る瞬間におれは手を放してしまい、石仮面はあの場所ではない所に落ちたのであろう。 街道の真ん中かもしれないし、森の奥深くかもしれない。だがおれには奇妙な確信があった。 間違いなくいつかおれは石仮面に出会う。 運命とでもいうのだろうか、普段は一笑に付して否定するような解釈だが、人間の感情以外のところでディオと石仮面の繋がりが感じられた。 故にルイズッ!このディオはいま暫く貴様の下に居てやろうッ! とある種のハチが卵を産んだ芋虫を食い尽くして孵化するように、いつか石仮面を見つけこの身が人間を超越したら 貴様は真っ先に血祭りにあげてやる。 ゆらり、とディオは立ち上がる。辺りの重苦しい空気が動く。 だが万が一という事がある。完璧と思える策を弄しても、しばしば自滅してしまうのが人間だからな…。 その場合、いかにルイズを上手く利用して地位や財産を手に入れるかが重要となる。 その為にもまずはこの学院内に『友達』を作らねばッ!まだこの世界には文字や地理、風習などわからないことが多い。 だから貴族、平民の垣根なくこのディオを支えてくれるような『友達』を作る必要があるのだ。 気がつくと周りは明るくなり、鳥の囀る声が聞こえていた。 「朝か……奴の様子でも見に行くか…ハクション!」 そう一人ごこちつくとくしゃみをしながらディオはルイズの部屋へと行った。 生身の身体に夜の寒さはきつかった。 to be continued…
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1779.html
使い魔は皇帝1 使い魔は皇帝<エンペラー>-2
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2497.html
おれは使い魔になるぞジョジョー!-0 おれは使い魔になるぞジョジョー!-1 おれは使い魔になるぞジョジョー!-2 おれは使い魔になるぞジョジョー!-幕間 おれは使い魔になるぞジョジョー!-3 おれは使い魔になるぞジョジョー!-4 おれは使い魔になるぞジョジョー!-5 おれは使い魔になるぞジョジョー!-幕間2 おれは使い魔になるぞジョジョー!-6前 おれは使い魔になるぞジョジョー!-6後 おれは使い魔になるぞジョジョー!-7 おれは使い魔になるぞジョジョー!-8 おれは使い魔になるぞジョジョー!-9 おれは使い魔になるぞジョジョー!-10